「合成洗剤は安全」との見解について
研究など科学活動には多く の研究費が必要であり,それが多く獲得できるほど研究者の活動は有利に働きます。
したがって、研究者はクライアントの意向を尊重することになり、産学官連携による様々なビジネスプロジェクトを展開されています。
ビジネスにおいて自社の商品の優位性を社会に伝えるのは当然のことですから、消費者は商品情報を客観的に捉える能力がますます必要になっています。
しかしながら、これまで見てきたように、PRTR法は問題化学物質の生産や移動や排出を行なう場合には、企業に届出義務を負わせる、という法律ですが、その問題物質として日常的に大量に使用されているLASがリストアップされたということを真摯に受け止めるべきです。
また、2005年度には農薬取締法が改正され、それぞれ化学物質の登録申請にあたり生態リスク評価データの取得が義務づけられることになりました。
具体的には、従来のコイへの毒性評価に加え、甲殻類および藻類への毒性評価が求められ、さらに毒性評価のみならず、暴露評価が追加され、化学物質の環境中予測濃度が水生生物に対する急性影響濃度を上回る場合には、登録が保留されます。従来の規制に比べて、確実に化学物質の生態影響評価は厳しくなりつつあります。
代表的な合成界面活性剤のLASは農薬ではありませんが、合成洗剤メーカー側の研究者をふくむ学界の共通の理解では、河川などでの水中濃度が0.1ppm以上で水生生物に対して有害であるとされています。
しかも日本の中小河川での実際の汚染濃度はこれをはるかに越えており、生態系に対する影響は,アユを使った実験で、忌避性が見られたLASの水中濃度は0.1ppmどころか、その100分の1レベルの0.0015ppmとされています。
生態系において、忌避行動は非常に大きな問題であり、水質の浄化能力の問題など生態系そのものが変わってしまう危惧があります。
洗剤は農薬よりもはるかに消費量が多く(主要農薬生産量の約7倍といわれています)、一般家庭を含め社会で多用されており、住居地帯の周辺で安易に廃棄されています。
したがって合成界面活性剤が化学物質として生態系に及ぼす影響は農薬よりもはるかに甚大となります。
このような化学物質が従来野放しにされてきたことは大変な問題であり、水生生物に対する悪影響があるものについては、当然、法的規制の対象にするべきなのです。
総合解析部資源循環研究室の天野耕二氏は、「快適な暮らしの代償としてのリスク」として、
以下のように合成洗剤の環境リスクに関する問題点を指摘しています。
合成洗剤の環境リスクの同定に必要な情報は、合成洗剤が環境中にどの程度蓄積し、どのような悪影響を与えるかということである。合成洗剤の主成分である界面活性剤の環境中の濃度については、多くの機関により全国各地で測定されており、水中では分解されやすい界面活性剤も底質中に蓄積する傾向があることがわかってきた。当研究所の総合解析部と水質土壌環境部が共同で行った全国の主要な汚濁湖沼における調査でも、代表的な陰イオン界面活性剤であるLAS(直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩)の湖沼底質への蓄積が観測され、底質深さ30cm前後までLASが検出された湖沼もあった。いくつかの水深の浅い湖沼では水中に検出された量の数倍から数十倍のLASが底質に蓄積しているものと推定された。
このような界面活性剤の底質への蓄積を合成洗剤の環境リスクの要素のひとつとして考察するにあたっては、環境中の界面活性剤の次のような挙動が重要となる。
1) 底質中の分解:水中に較べて底質中では分解が遅い。
2) 水中への再溶出:水中で検出されなくなっても、底質間隙水中の拡散により、底質から水中へ再溶出する。
3) 他の有害化学物質との共存:底質中には他の数多くの化学物質も蓄積しており、界面活性剤そのものの毒性以外に複合作用という潜在的なリスクがある。
4) 分解後の中間生成物質の存在:一次分解を受けて界面活性を失った後も完全に無機化されるまでは化学物質としてのリスクを残している。
界面活性剤の生物影響については数多くの研究成果が上がっており、最近は他の有害化学物質との複合作用についても研究が進められているが、これらを総合したリスクの同定は簡単ではない。さらに、合成洗剤全体としては助剤など界面活性剤以外の成分によるリスクも無視できない。
―中略―
合成洗剤について現在巷にあふれている情報のほとんどは「便利で清潔な暮らし」への賛歌であり、使用後環境中に放出された後の合成洗剤の運命と生態系へのリスクに関する情報は少ない。環境へのリスクをどの程度まで受け入れながら清潔さや便利さを追求するかという意志決定を消費者がはっきりできるような研究成果が求められる。
石鹸洗剤工業会は合成洗剤の安全性について、以下の見解を発表しています。
日本石鹸洗剤工業会「安全と環境」https://jsda.org/w/02_anzen/index.html
LASの生分解が遅いというのはあくまでも実験室のデータであり、実際の環境中ではLASは下水処理場で99%、また都市型の河川でも6km流れる間に90%も生分解されていることが知られています。
また、洗剤の洗濯1回当たりの有機物負荷量は粉石けんよりかなり少なく、LASが石けんに比較して特に環境を汚すということはありません。
合成洗剤の安全性、毒性は通常の使用条件では問題ない。
「洗剤問題」はすでに解決されています。
ナチュクリじいさんの辛口コラム
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