合成界面活性剤の生態毒性
(注)下水処理場などで分解を受けて、内分泌撹乱作用が疑われているノニルフェノール(NP)を生成するAPEは、約4000tが我が国で消費されていると推定されている。(同書より)
淑徳大学国際コミュニケーション学部人間環境学科教授・中央環境審議会委員の若林明子氏の著書「化学物質と生態毒性」(社団法人産業環境管理協会)の内容をご紹介します。
若林氏は合成界面活性剤の問題を生態毒性学の観点から、次のように指摘しています。
界面活性剤は合成洗剤に洗浄力をもたせる主成分として配合されており、最も身近な化学物質である。開放系で多量に用いられているため、環境水中に多く存在する環境汚染物質として重要である。合成洗剤に配合されている界面活性剤の健康影響については、厚生省は否定的な見解を出している。しかし、生態毒性学の観点から見ると、一部の界面活性剤は、水生生物、特に魚類に対して強い急性毒性を持つことが明らかになっており、注目すべき環境汚染物質の1つである。
また、生分解性の項では東京・多摩川の河川水中における合成界面活性剤の生分解について、水温を4段階変化させた試験をし、界面活性剤の種類によっては水温の低い季節には分解されにくくなることを明らかにしています。
夏季の水温に相当する27℃ではABS以外の界面活性剤は水中からほとんど消失したとしつつ、
水温の低下によって生分解性は徐々に低下し、冬季の水温に相当する7℃では、LASは9日目でも約20%しか分解を受けなかった。また、非イオン界面活性剤のAPE(注)の分解性も低く、10℃の水温では1週間後でも約90%が水中に残留していた。
と報告しています。
若林氏は同書の「序」の中で日本の環境行政について以下のように指摘しています。
一時期、我が国の国民はエコノミックアニマルと諸外国から批判されたが、私は環境行政にもそんな考えが投影されているように思えてならない。すなわち、ヒトの健康には一定の配慮を するが、他の生物への配慮がほとんどない状況は、あたかもヒトは労働力として必要であるが、他の生物は食料として以外重要ではないと。例えば、水の環境基準をみても、化学物質のヒトと他の水生生物への影響は当然異なるにもかかわらず、水生生物への毒性影響は考慮されていない。
また、「石けんは環境負荷が高い」とか「最近の合成洗剤は生分解性が良い」と主張する学者、専門家の見解がありますが、同書の見解は以下の通りです。
界面活性剤は、下水処理場での分解率が高いため、下水道の普及している地域では公共用水域に高濃度で排出される心配はないと予想できる。しかし、下水道の未普及地域では、合併浄化槽などがない場合、洗濯等に用いた界面活性剤が河川などに直接流入する。そのような場合には、界面活性剤は水生生物、特に魚類への毒性が強いため、毒性の弱い石けんなどの界面活性剤を使用すべきであろう。さらに、家庭や事業所などでは使用量を抑え、必要最小限の使用にとどめるなどの努力が必要であろう。
ナチュクリじいさんの辛口コラム
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